アガサ・クリスティ17

年末はいろいろ雑件が重なっていることもあり、文体が小難しいヴィンテージ・ミステリではなく、気楽に愉しめるクリスティ文庫に集中することにしました。その一冊目は、テレビドラマでも観たことのある『ホロー荘の殺人』にしました。観た記憶はあるものの、その筋書きは殆ど消失していましたので、あらためて本とテレビドラマを並行して愉しみました。この物語はミステリと云うよりも、戯曲的な展開が面白かったです。登場人物も少ないし、それぞれが主人公であり、どこかの劇場の舞台で台詞を喋っている感じでしょうか。こうしたプロットは演劇やテレビドラマ化はしやすいと思いますし、ドラマの出来はなかなか良かったと思います。もしかすると、クリスティは舞台脚本を前提とした構成にしたかったのかも知れません。物語は英国小説の常で、基本的に無責任なダメ男が出てきて、悔しいことに何故か周囲の女性たちからはモテる。しばらくは微妙に保つのですが、何かの拍子にバランスが崩れて崩壊して(=殺人を犯して)しまうという筋書きです。ファミリーの対面を守るために、周囲が犯人をかばうという展開が物語を複雑にしていきます。古今東西どこでも云えることでしょうが、愛憎は表裏一体、愛情が深ければ深いほど、その憎しみも強くなるものなのでしょう。