ポアロものの中編集、『死人の鏡:Murder in the Mews』(1937)を再読しました。四話掲載されていて、前も同じ印象でしたが、第一話目の「厩舎街(ミューズ街)の殺人」が一番好きです。アガサは人の心を描くことについては天才的で、心の錯綜が殺人などの事件を引き起こすことを、じつに様々な切り口で作品に落とし込んでいます。百年も前の作品であっても、構成が完璧なので、現代に読んでも全く違和感なく感動を呼び起こしてしまいます。私たちは「人間」と謂うように、一人では生きていけない存在ですが、この人と人とのしがらみで、時には恐ろしいほど憎んだり、呆れるほど無私の愛情を示したりするものです。基本的には、家族も社会も個人の集まりに過ぎないので、もっと淡々と過ごしていくことが、平穏な人生を送るための要件なのですが、何故かは知りませんがどうしても他者に深入りしてしまいがちで、結果的に余計な軋轢を生じてしまうもののようです。わたしがミステリーに魅せられる点は、そうした心の描写が数多く登場してくることにあります。自分が健やかに生きていく方法を、物語を通じて知らず知らずのうちに知恵として得られることは間違いありません。









