ローレンス・オズボーン

私立探偵フィリップ・マーロウと云えば、レイモンド・チャンドラーになりますが、チャンドラーの没後にもマーロウものの長編小説は三作出版されています。今回の『ただの眠りを』は、オズボーン氏の筆によって、老齢になったマーロウを描いております。メキシコの田舎町に隠遁しているマーロウ老を、ふたたび探偵業の道に引き込むのが保険会社です。メキシコで起きた、ちょっとした溺死事件のウラを取って欲しいという話で、メキシコに居るマーロウ氏に調査依頼がまいります。マーロウ自身も、すでに引退した身なので、そうした誘いには本来は乗らなかったはずなのですが、異郷での怠惰な毎日に飽きてきた彼は、内なる声に絆されて、ふたたび動き出す、というストーリーです。そうは言っても、体力だけでなく気力もまた昔のようには持っておりません。でも、ハードボイルドなりの矜持は相変わらず残っているようで、そこかしこで素敵な台詞が発せられます。ここでのマーロウの年齢は72歳、この年齢ならではの表現に痺れてしまいます。「将来は誰もが老人になる。それはそれで悪いことじゃない。なぜなら、そうなったらもう老人になることを心配しなくてもよくなるからね」「きみは地球が平らだって信じている。そんなふうに私には聞こえるが」こんな台詞の言える老人に私もなってみたいと思います。