James Hilton

小説の中で「冒険小説」というものがありますが、もしかすると自分が一番好きなジャンルにあたる気がします。自宅の机の上に置いてある、あるいは公園のベンチに座りながら手にする、小さな一冊の本で、それこそ世界中を、時空を超えて旅することが出来るのですから、これはもう魔法のようなものかも知れません。『チップス先生さようなら』で有名なヒルトン氏の『失われた地平線:LOST HORIZON(1933)』は、そんな世界を見せてくれる一冊です。理想郷を「シャングリラ」と呼称したりすることがありますが、この小説が由来のようです。チベットにあるラマ教の寺院に否応なく運ばれてしまったイギリス人外交官が体験する不思議な世界、人間にとって何が大切なことなのだろうと考えざるを得ない、とても素敵な一冊です。主人公のコンウェイはある決断をしてしまうのですが、自分ならばおそらく二度と下界には戻らないと思います。分水嶺は人生の至るところに存在しています。一旦それを超えてしまうと、もとの場所に戻ることは叶わないと思います。