ヘレン・マクロイ6

お馴染みマクロイ女史の『牧神の影:Panic』(1944)を読んでみました。精神科医ウィリング博士が登場しない「ノン・シリーズ」にあたりますが、今回に関しては個人的にはやや苦手な作品でした。それは「暗号解析」が一つのキーワードになっているためで、このあたりの内容ははっきり言って難しいです。大凡の暗号概念を掴んだ気になって読み進めましたが、いまいちはっきりと見えないので、確かに謎解きそのものには直接の関係はないのですが、読後感は消化不良気味です。英文タイトルのPanicは、ギリシア神話にも出てくる半獣神パーンから来ているらしいです。この神は羊飼いと羊の群れを監視していて、ときおり彼らに混乱や恐怖を与える振る舞いをするらしいです。おたおたと羊たちが、突然慌てまわる様をみて「パニック」とか言う言葉が出てきたのかも知れません。暗号の話を除けば、ヒロインのアリスンを取り巻く人間関係が面白く、いつものように、女史の機微な心理描写は愉しめましたので、良しとしましょう。