イーデン・フィルポッツ

台風2号はまだ沖縄付近ですが、前線を刺激して東京は本降りの雨です。こうした日はぽつねんと読書するのが一番です。さて、今回の紹介はもう一冊、ソウルに帯同した文庫本、フィルポッツの『赤毛のレドメイン家』です。1922年に出版されたこの本は有名なので、知っている方も多いと思います。日本人に限らずアジア人の場合は、基本的には髪の毛は真っ黒であり、小説の中でも人間の描写にはほとんど登場してきません。せいぜい縮れ毛なのかどうかぐらいでしょう。ところが欧米の小説のなかでは、必ず髪の色と目の色が出てきて、その人物の紹介に使われます。彼らの中で「赤毛」がどうした評価(先入観)を持っているのかは、はっきりとは分かりませんが、ブロンドと青い瞳を称賛しているところを見ると、そうでない(=敬愛できない)グループの一つになるようですが、赤毛の場合はその中でも「ちょっと変わった」グループと評価されているのかも知れません。スコットランド、アイルランドなどでケルト系の人によく見られるようです。モンゴメリの「赤毛のアン」でも、ヒロインの立ち位置を毛の色で規定しているように思えます。さて、本題ですが、時代は第一次世界大戦によって価値観が大きく変わってしまい、古来からの英国封建社会が失われていく中での出来事を描いています。舞台となる風景や、登場人物たちの感情の描写は秀逸で、これが傑作と云われる所以もそこにあるのかも知れません。クリスティの描く探偵は完璧で、見事に難事件を解決していきますが、ここでは違います。若手刑事ブレンドンは思い込みもあって失敗を重ねてしまいます。それがまた読み手の感情移入を誘います。