エミリ・ディキンソン2

詩というのは、凝縮されているために、それを受け取る人によって捉え方が変わってくるものですね。数学のように絶対的な概念、いわば定理を論じているのではなく、自らの身の周りに起きている事象の断片を細やかに描いているものだと私は考えています。
先日、古書店でエミリ・ディキンソンの詩集『わたしは誰でもない』を見つけたので、思わず購入してしまいました。英米人には一般的教養とされている感のある彼女の詩に、多少なりとも馴染んでおきたいと考えたからです。がさつで鈍い自分の感性ですので、響いてこない詩も載っているのですが、思わず共感してしまう言葉も数多くあります。たとえば、

Tell all the truth but tell it slant ―
Success in Circuit lies
真実をすべて語りなさい
でも斜めに語りなさい
成功はまわり道にある

この詩には多くの含蓄がありますね。人によっては教条的に聞こえるかも知れませんが、エミリ自身は、この詩を誰かに伝えようとして書いたのでしょうか?
私にはそうは思えません。自分自身の心のなかにむけて発した言葉のように思えます。繊細な詩人の心のうちの声を聴くからこそ、詩は多くの人々に感動を与えるのだと感じます。