ジェイミー・フォード

読み終えて涙が止まりませんでした。おそらく、今年出会った小説のなかでベストになるでしょう。『あの日、パナマホテルで:HOTEL ON THE CORNER OF BITTER AND SWEET(2009)』には、日本人だけではなく多くの人々の心を揺さぶることが描かれています。
おそらく若い人には想像もつかないでしょうが、自由を標榜する国であるはずの米国で、日系人に対する酷い仕打ち、つまり強制収容を行ったことは忘れてはいけないはずです。真珠湾攻撃以降、12万人もの日系人が収容所に強制収容されました。中南米の親米国でも同じようなことが起きました。歴史の記録からは全般的な断片しか触れることが出来ません。多くの「個」にはそれこそ星の数ほどのストーリーがあるはずです。
日系人の女の子ケイコと無二の親友となった中国系アメリカ人少年ヘンリーが、この物語の主人公です。社会の誹謗や無理解と抗いながら、両親とも反発し合いつつ、歴史に翻弄されながら、どれほど厳しいことが自らに降りかかっても、身近にいる大切な人を一個の人間として守っていくこと、それが如何に大切かをこの小説では示してくれています。
「国籍」や「肌の色」「民族」などという集団的概念に対して、「個」が己の道を正しく選んで進んでいくためには、何が必要なのかを示そうとしているように思えます。分からないなりにも自分を信じて、自身の心を共にして、前を向いて進んでいくことが肝心なのでしょう。なぜなら人生はたった一度しかありませんから。
でも、僅か13〜16歳でこのような行動が出来るのか、私にはとても出来そうにありません。日本に住む日本人には無理だと思えます。おそらくは「個」を大切にしていく社会観が醸成されないと難しいでしょう。
物語のなかで「彼の父親がかって言ったことがある。人生におけるもっとも困難な選択は、善と悪の選択ではなく、善と最善の選択なのだと。」この言葉の奥底は、とても重たいものです。あらためて云うまでもなく、戦争というものは理屈抜きで避けなければいけません。