アントニイ・バークリー3

大好きなバークリーの『シシリーは消えた:Cicely Disappears』(1927)を読んでみました。厳密には、この本は”A・モンマス・プラッツ”名義で書かれていますが、”フランシス・アイルズ”のように作品は多くないので、バークリーの作品として、ここではご紹介いたします。ミステリーというカテゴリは幅広く、まさに千差万別ですが、このバークリーの作品は図らずも自分の好みと合致しています。昨今のミステリーはと云うと、これでもかというぐらい猟奇的な殺人や、陰惨な描写が目白押しで、それだけでもう読む気を無くしてしまいますが、バークリーは裏切りませんね。謎解きやトリック云々ではなく、登場人物の心理描写に多くを割いて、しかも素敵な女性が登場してくるというパターンですが、自分的にはこうした「薄味のミステリ」がフィットしています。
多少(かなり)心もとない主人公の男性、財産を持ち崩してしまい、なんと従僕に身をやつしながらも健気に生きていこうと頑張りますが、その出自から、勤め先の使用人連中からは嫌われ、あっという間に失職してしまいますが、そこはバークリーお決まりのキャラ立ちする女性に助けられながら、最後はうまく収めてハッピーエンドという筋書きには、いつもながら清涼感が残ります。世の中、変な奴も大勢いるけれど、影に日向に支えてくれる人もまた、それなりにいて、結構救われる内容になっています。こうした世の中であってほしいと思います。長らく翻訳されずにいたので「幻の作品」とか称されておりますが、時代は変われど、いい作品であれば、いつでも人々に感動を与えることが出来ます。