ドロシー・L・セイヤーズ12

セイヤーズ女史の第二作目『雲なす証言:Clouds of Witness』(1926)を読んでみました。おそらくこの頃の女史は、作家としてまだ独立できていない段階(広告代理店でコピーライターをしていた時期)だったのでしょう。内容的には粗っぽい部分が散見されますが、展開がダイナミックなので、多くの読み手は楽しめると思います。飛行機による大洋横断劇もあって、しかもこれが1920年代の作品ですから、やはり英国小説の魅力に惹かれてしまいます。セイヤーズ万歳です。内容はウィムジイ卿の兄で、貴族院議員でもあるデンヴァー公爵が、ウィムジイ卿の妹メアリの許嫁キャスカートを殺害した犯人だと拘束され、ウィムジイ卿が召喚されるところから始まります。しかも公爵は絞首刑になるよりも紳士の沈黙を守ることに終始し、妹は妹で誰かをかばうために嘘をついて捜査や裁判を混乱させます。優秀な執事バンターや、パーカー警部、母の先代公妃など錚々たる脇役陣が固めているので、面白くないわけはありませんね。当時の英国社会の法廷の様子や、上流階級の人々の考え方などが垣間見れたことも、話に彩りを添えます。サスペンス推理という位置づけでしょうか?
それにしてもキーパーソンの一人でもある、麗しのグライムソープ夫人、現実に見ることができたら、どれだけ眼福でしょう。