R・オースティン・フリーマン

続いてまた、ガーナつながりでオースティン・フリーマンの『オシリスの眼』を手にしました。作者は医師として、ガーナ(当時は黄金海岸)駐在時に風土病に罹り、作家を目指すことになったようです。その時点での禍いが、後世まで名を残すことになるきっかけとなったのですから、中国故事で云う「人間万事塞翁が馬」ということなのでしょう。当時の大英帝国が、アフリカ諸国と結びつきがあったという歴史的な事実には、こうした形で自分も認識しつつあります。さて、小説のなかで登場するソーンダイク博士は高名な法医学者ですが、その本当の姿は科学的捜査を旨とする探偵で、数多くの難事件を、科学的かつロジカルな分析で解決していくので、本国英国では「シャーロック・ホームズ最大のライバル」と評されているらしいです。今日の犯罪事件調査でも、多くの科学的手法が使われておりますが、この作品は1911年の発表です。110余年の隔たりを感じさせることなく、今でもストーリーを十分に愉しめる本を書き上げた作者の力量には舌を巻きます。エジプトという国が、当時の英国社会と浅からぬ関係にあったのだろうと云うことも、この本を通じて理解するようになりました。前にも書きましたが、謎解きやトリック自体には、自分自身はさほど興味がないのですが、結論(犯人逮捕)に至るまで、徐々に絞り込んでいく、じつに正確な帰納的ロジックには驚きました。日本での知名度は高くないようですが、フリーマンの他の作品も是非とも読んでみたくなりました