ジョン・ディクスン・カー 2

カーの傑作と称されている『皇帝のかぎ煙草入れ』を読んでみました。英国ミステリ小説というものの、これはフランスが舞台になっています。1942年の作品ですので、フランスの領土は隣国ドイツに蹂躙されている最中、さぞかし人心は荒れているはずですが、こうしてミステリの傑作が生まれ、それを手にする人たちも多くいた事でしょう。ひどい世の中でもこうした本が売れていることが、これもまた自由のなせるわざ。救いを覚えずにはいられません。全体主義国家ではこうはいかないはずです。政治批判など一言も書かなくとも、文芸書などは目の敵にされてしまうでしょう。自由と民主主義の国では厄介なもめごとも度々起きますが、批判を許さぬ冷徹な全体主義国家よりもマシです。脱線してしまいましたが、そうした時代に書かれた本だからこそ、まずは思い切りリスペクトしたいと思います。この本のトリック骨子は、おそらく「思い込み」「先入観」による事実誤認から生まれていますね。例にもれず私も騙されました。自慢ではないですが、私自身はめちゃ暗示にかかりやすい性格です。ヒロイン役のイヴ・ニールと一緒です(彼女のような純真さは失せて久しいですが)w。それにしても出てくる男性陣が、キンロス博士を例外に、揃いも揃ってダメ人物なのは笑えます。この手の小説を読むと、いつも感じることですが、世の中に男性が少なければ(全然いなくなると多少まずいかも知れません)、殺人事件や暴力、それに戦争などはずっと減るはずだと自分は信じています。