キプリング

コロナで朦朧としていたこともあり、ベッドサイドにあった本棚から無作為に選んだのが『キム』。ミステリではないけれど、オーバーヒートして、故障している脳みそには丁度いいかも知れません。この本は1901年の出版なので、かれこれ120年以上前になりますが、中身はかなり面白く、しかも新訳版のため時代を全く感じさせませんでした。有名なこの小説の舞台は英国領インドです。大英帝国が最も輝いていた時代の物語になります。インドにも様々な民族と信仰が、まるでごった煮のように絡み合って、摩訶不思議な味わいと匂いを放っています。老僧から多くの事柄を学びながらも、自分の生業にもならんとするスパイ活動で、めきめき頭角を表していくアングロ・インディアンのキムが、このあとどうなるのかは分からぬまま小説は終わりますが、この本を単なる子供向け冒険譚だと見做すとしたら、たいそう勿体ない話になります。そこには、生きていくための数多くのメッセージが隠されているからです。「吾輩はな、やたらと拝んで神々を困らせるような不埒を働いたことはない。天井の神々に年がら年中くちばしを挟んでおると、たちまちお迎えが来てしまう。」「多弁な妻を持つものには来世の私服が約束されておる」「道は歩くため、家は住むため、牛は働くため、畑は耕すため、そして人は言葉を交わすために存在している。すべては確かな現実である」不確かな未来を思い悩む必要はない。過去を振り返り心悔やむこともない。隣や近くを見てみよう。そこに居る仲間たちと会話をもっとしていこう。ときに助け合いながら、少しづつ道を歩んでいこう。