エラリー・クィーン4

犯罪の動機として挙げられる要素に「金」と「外聞」があります。病院にはそれらが揃っており、かつ「閉鎖性」「隠蔽体質」「名声欲」などの環境も犯罪を助長する要素になります。更には「薬物」「恣意的誤診」「執刀」などの手段そのものまで挙げられますが、この小説『オランダ靴の謎』では、そのような手段は用いられません。絞殺という粗暴な手段を使うのですが、そこで読者はまず騙されます。「そんなことができる人物像」が頭に浮かんだ時点で捜査は迷宮に入ります。エラリーもこれほど翻弄されるとは驚きでしたが、あらためて感じたことは「先入観」の怖さです。それに沿って進む道が正しければ何も問題ないのですが、そうでない場合が往々にしてあります。何ごともそうですが、進んでいくうちに「この方向は間違っている」と感じることがあります。そのときには、かなりの面倒になりますが「始めに戻ってやり直す」ということが最善の方法になると、この本では教えています。人間というのは、してきたこと、実績にこだわる余り、道を一旦外れて考え直すことが苦手な生き物です。過去の失敗や間違いを消しゴムで消すことは出来ませんが、新たにやり直すということは、どんなに遅くなっても可能で、また有効な手法だと思います。この小説では論理的な思考法による推理と課題解決を謳っていますが、「行き詰まったら一旦戻ってやり直し」というのも正に論理的な手法だと言えるのでしょう。そして一つ論理的な注意点があります。読書という愉しい時間を過ごすためには「絶対に」最終ページをめくってはいけません。

SONY DSC