ジョン・ディクスン・カー

連休でまったりしてます。と言いたいところですが、小忙しく、炎天下なのに毎日でかけています。さて、カーター・ディクスンについては、以前ここでも紹介いたしましたが、今回は、カー名義での短編紹介です。『妖魔の森の家』は1947年の作品ですが、当時の世相を振り返ってみましょう。まもなく終戦記念日を迎えますが、太平洋戦争の終戦が1945年ですので、おそらくは世界中の国々は戦後のカオスの真っ最中で混乱していたはずですが、ミステリ小説の世界では(そんな世相にも拘らず)いまでも多くの人々に知られているような作品が、いろいろ上梓されています。アイリッシュ「暗闇へのワルツ」、ケメルマン「九マイルは遠すぎる」などがそれですが、どの様な日常であっても(辛い世相ならば尚更)書物による癒やしは、古今東西必要だったのでしょう。敗戦のがれきだらけの日本からも負けず劣らず、横溝正史「獄門島」「黒猫亭事件」、坂口安吾「不連続殺人事件」などの名作が出版されています。人間は結構しぶとい存在だなと感じた次第です。
脱線してしまいましたが、小説の話に戻りましょう。『妖魔の森の家』では、有名なあのヘンリ・メリヴェール卿(H・M)が活躍しています。密室トリックによる殺人事件で、この世界はカーの得意とするところです。単なるハウダニットではなく、人の心に隠されている闇を上手に取り上げております。なかでも自分が気にいった話は『赤いカツラの手がかり』です。巻末解説ではやや批判的でしたが、私はとても愉しく読めました(ここが大事)。フランス人気質丸だしの女性記者ジャックリーヌとベル警部とのコンビがいい感じです。他にも短編物があればと調べたものの、無さそうなのでがっかりしました。いずれにしても、カーの短編ミステリは構成がかっちりしていて、雰囲気も軽妙で面白いと感じました。