ジョセフィン・テイ3

すっかりお気に入りの作家になったテイ女史の出世作『フランチャイズ事件』(1948年)を入手したので読んでみました。おそらく今は絶版になっているので、手に入れるには古書店から探さなければなりません。私が入手したのは、昭和62年のハヤカワ・ポケット・ミステリ再販版で、その後は新訳が出たという話は聞いておりません。印字も旧仮名遣いで、今では人権侵害云々で表記できない言葉もそこかしこに出ているので、自分的には却って新鮮に思えました。いつもながら、ティの本に出てくるのは、いま一つ頼りない主人公と、魅力的なレディの組み合わせになっています。今回は弁護士のブレーヤー氏と、あらぬ嫌疑をかけられたマリオン・シャープです。そしてカギを握る、ベティ・ケーンというミステリアスな娘。ちなみに、よくある「…殺人事件」、などのようなタイトルでないのは、この作品のメインストーリーでは死人はでません。こうしたミステリは安心して見ていられます。そして最後は、思わせぶりなエンディングで読者の心を掴んでしまいます。あらためて感じるのは、個人への集団リンチにも成りかねないメディア、マスコミ記事のひどさですが、今日ならともかく、75年も前に、こうした大衆扇動の怖さを紹介しているテイ女史、さすがです。