Isaac Asimov

恥ずかしながら、SF人気作家のアイザック・アシモフがミステリー短編を書いていることは寡聞にて知りませんでした。今回、手にした『黒後家蜘蛛の会1:Tales of the Black Widowers』(1974)を読んでみて、その面白さにちょっとびっくりしています。タイトルにある「黒後家蜘蛛」というのは、米国に実在する毒グモらしく、美しいビジュアルとは裏腹に、猛毒を持っているそうです。レストランで定期的に会食する六人、そして給仕役のヘンリー。毎回、ゲストや当人が抱えている問題の謎解きを進めていき、ヘンリーが控えめに解決法を説くというお決まりのパターンで、まあそれが鼻につくという巷の評価も分からないではありませんが、この「お決まりの」というのは、読み手に安心感や期待感を与えていく点は違いないところです。そこに至るまでの、メンバー間のやり取りの脱線ぶりがまた愉快です。それぞれがインテリなので、論旨はともかく、豊富な知識に裏打ちされた会話が素晴らしい。思うに昨今、階級社会と呼ばれなくなって久しいですが、少なくとも上等な紳士の間では、シェイクスピアと聖書は諳んじることができないと仲間に入れてもらえません。これらはいわゆる「教養」のベースになっているようです。日本のような何だか境界の見えない「薄墨」のような社会に暮らしていると、ある程度の社会規範がしっかりしている社会にも魅力を感じてしまいますね。