エリー・グリフィス2

読みたかったハービンダー刑事の続編『The Postscript Murders』ですが、邦訳本タイトルはアレンジしていて『窓辺の愛書家』となっていました。読み終えて、前作の時にも感心しましたが、今回も幾重にもプロットを絡めていて、かなりの完成度だと感じました。すごい作家です。海辺にあるシニア向けのマンションに住んでいた、とある老婦人の死から始まったこの物語は、いろいろな伏線が隠されており、それぞれがどんどん発散していくので、途中で大変なことになってしまうのですが、最後の方でしっかりと回収されているので、このあたりは流石と思いました。グリフィス女史の頭の構造は並外れていますね。じつはこのペギー婦人は「殺人コンサルタント」という面妖な肩書を持っている方で、複数の推理小説家に対して殺人プロットの提案を行ってきたようです。どうやらプロの小説家と言えども、迫りくる出版期限に合わせて執筆作業を仕上げねばならない中で追い込まれてしまうのでしょう。だからこうした「コンサルタント」の助力を仰ぐようなニーズが生まれるのも分かる気がします。
かかるプロットは、まさに「知的財産」ですので金や名声が絡んできます。財産を守るために、あるいは人の財産を我がものにするために、そこに殺人が生まれる余地が出てくるのだと感じました。面白いのは、ウクライナ人の介護士ナタルカ、修道士上がりのカフェオーナーのベネディクト、気が若い老紳士エドウィン、そしてお馴染み女刑事ハービンダーという登場人物たちです。わたし的には謎解きやトリック自体には強い関心はなく、むしろ殺人というのは、知的生物にとっては、究極的に異常な行為であるわけで、それに絡めた登場人物たちの心の動きを最優先で楽しんでいますので、グリフィス女史の作品はうってつけなのです。願わくばペギーの半生を描いた物語があるとすれば、是非とも読んでみたいものです。