クレイグ・ライス3

歳のせいか最近とみに忘れ物が増えていて、先日は読みかけの小説を自宅に忘れてしまいました。間の悪いことに、こういう時に限って電車の連絡が悪く、本を読むしかない状況に陥るものです。そんなわけで、久しぶりに電子図書館のお世話になって読んだのが、クレイグ・ライス女史の『死体は散歩する』(1940)です。その頃の流行りのメディアはラジオで、大人気ラジオスター歌手の周辺で起こる殺人事件です。酔いどれ弁護士のマローンが登場して事件解決に動くのですが、ラジオスターのマネージャーでもあるジェイクそして恋人のヘレンがかき乱してしまうことで、事件はますます混迷の度を増してしまいます。どたばたのユーモアあふれるミステリです。
1940年と言えば、昭和15年にあたりますが、この年の日本はまさに破滅に向かって舵を切った年になります。象徴的なのは「日独伊三国同盟」で、これに対してルーズベルトは対日石油輸出禁輸を決めました。ヨーロッパではドイツ軍がポーランドを占領し、ベルギーやフランスに侵攻を開始した年です。こうした暗黒の世相を反映して、ユーモアふれるミステリがもてはやされた時代でもあるのです。それを認識しながら読むことで、笑いの中にほろ苦さがにじみ出てくるのは自然な成り行きだと思います。