ニコラス・ブレイク

英国のミステリ作家のひとりブレイク氏の『死の翌朝(Morning After Death)』の訳本(熊木信太朗訳)を読んでみました。1966年の作品なので、いわば近年の小説になります。カボット大学という架空の大学(察するにハーバード大学)で起きた教授殺害事件の謎を、イギリスからやって来た私立探偵、ナイジェル・ストレンジウェイズ氏が、幾重にも絡めたアリバイやトリックを解いていくというストーリーです。私自身は、ミステリ小説でも登場人物の心理描写に重きを置いており、謎解きやトリック自体はあまり好みではありませんので、この本をもう一度読むことは無さそうですが、ナイジェルの登場する長編小説は15~16冊もあるので、こうした世界が好きな人には刺さる内容なのかも知れません。
じつはタイトルも引用されているのですが、文中で引用されているエミリ・ディキンソンの詩の一節、「私は頭のなかに葬式を感じた。参列者たちが行き交う様を(I felt a Funeral, in my Brain, And Mourners to and fro)」という表現に、容疑者が反応したので、事件解決に向かいはじめたのですが、こうした抒情詩を(ある階層以上の)ネイティブは身につけており、こうしたことは訳本を読んでみても、英米詩に馴染みのない東洋人にはピンとこないものです。(注:Emily Elizabeth Dickinsonは米国の詩人として著名であり、その代表的な詩は英米の教養人の間では常識的に引用されているようです)
上に取り上げた詩の一節も、CHAT GPTから「感情や状況を表現するために使われる、よく知られているフレーズです」と云われてしまい、あれこれディッキンソンの詩を調べてみたら、引用したくなるような素晴らしいものばかりで脱帽しました。脱線しましたが、やはり世界は広いです。気に入った一節を添えておきます。

By Chivalries as tiny,
A Blossom, or a Book,
The seeds of smiles are planted—
Which blossom in the dark.

気高きは、小さきもの、
一本の花、一冊の本も、
ほほえみの種は宿され―――
暗闇において花開く。

By Emily Elizabeth Dickinson