アガサ・クリスティ18

クリスティ文庫の短編集を読みたい気分だったので、結構古い(2004年邦訳出版)ものでしたが『クリスマス・プディングの冒険』を手にしてみました。
この他にも『スペイン櫃の秘密』『負け犬』『二十四羽の黒つぐみ』『夢』『グリーンショウ氏の阿房宮』などが掲載されており、どれもいずれ劣らず愉しめました。作品の長さと出来映えは全く関係ないものですので、短編だからつまらない、などと云うことは全くありません。短編が故の、テレビドラマ化も多くなされており、この本でも数作品が映像でも愉しめます。他の作品も秀逸ですが(個人的には『二十四羽の黒つぐみ』が好きです)、短編集タイトルの『クリスマス・プディングの冒険』も面白い作品です。英米ミステリを読むとき勉強になるのは「?」で、これはカルチャ―の違いを発見するという愉しみにも繋がっています。イギリスでクリスマス料理のデザートと云えばクリスマス・プディングになる訳ですが、そもそも無宗教(偽の仏教徒)でもある大方の日本人にとっては、何がなんやらという話になるはずです。中世起源のこの品は、かのヴィクトリア女王が王室のクリスマスデザートに指名したことから、国民的な人気が高まって、今日にまで至っているものです。プディングをの生地に、願い事をしながら指輪やコインなどを混ぜ込むことで、願い事を唱えたり、未来の運勢を占うという民俗伝承もあるようで、この作品でも、このことが記載されています。こうした英国文化の何気ない一コマを学ぶこともまた、英国ミステリ本から得られる密やかな愉しみでもあります。
余談ですが
上に挙げた『二十四羽の黒つぐみ』のタイトルもまた、英国人なら誰でも知っているマザーグースの中からの引用なので、そこまで踏み込むことで、さらに物語が楽しむことが出来る、というわけです。