アガサ・クリスティ26

基本的にはクリスティの作品は読みやすいのですが、1961年に発表された『蒼ざめた馬:THE POLE HORSE』、これには少々難儀しました。いわゆる「ノン・シリーズ」でポワロもマープルも登場しないのですが、名脇役のオリヴァ婦人が謎を解くキーパーソンとして登場してきます。こうしたオカルトチックな作品は、作者が勝手に独自世界を作ってしまうので気に入らないものが多いのですが、これはクリスティものなので、そう云った逃げ道はありません。因果関係は物語のなかで必ず構成されてあり、それをどう解きほぐすかで読み手の興味を誘います。しかも、有り難いことに解決への伏線はすべて文章の中に(密かにさりげなく)描かれています。読み手は作者に騙されないように、ひとつ1つ慎重に頁をめくっていかねばならないので、たびたび読み戻ることになります。なかなか頁が進まないのは、こうした作者との馬鹿し合いがあるためだとも云えます。ロジカルだらけの謎解きに終わらないのは、女友達ジンジャーの活躍に負うところ大なのだと思います。人生というものは山あり谷ありですので、順風満帆お天気のときに傍にいる者よりも、雨や嵐などいざというときに助け合うことのできる相棒や伴侶を見つけられるかどうか、それが実りある人生を送れるかどうかの鍵でしょう。こうした世界もさりげなく示してくれる、クリスティの作品が世界中で広く愛されるのは、こうした理由もあると思います。