ドロシー・L・セイヤーズ6

先に取り上げたセイヤーズの短編集の巻末解説を読んでみて、翻訳者大御所である河野一郎先生の訳本も読んでみようと思い、ウェブ図書館で『疑惑・アリババの呪文』を借り出し(日曜の深夜でも貸出できるのが嬉しいです)て、読んでみました。拙宅蔵書のブロンテ訳本の幾つか(ジェイン・エア、嵐が丘)が、河野先生のものだったこともあり、久しぶりに河野訳に触れてみたくなったからです。グーテンベルグ21に掲載されているベースは、1960年の訳本となっているのですが、二作とも古さを全く感じないほどの名訳だと実感しました。『アリババの呪文』は井伊訳よりも、河野訳の方が自分に合っていました。新訳の方が当然有利なのですが、だからと言って、邦語小説としての出来映えなので、古い訳本が必ず劣るということにはなりません。加えて、意外だったのが短編の『疑惑』です。短い物語にも拘らず、自分にとってのインパクトは大きかったです。むろん、思慮の浅さ(軽挙妄動)は避けるべき行為ではありますが、思い込みの怖さもまた、深く自省すべき事柄のようです。何があっても不思議ではないのが現実、60年前も今も変わらぬ真理です。