カーター・ディクスン3

いつもクリスティばかりだと飽きてしまうので、カーター・ディクスンの『Nine and Death Makes Ten(九人と死で十人だ)』を読んでみました。第二次大戦中、大西洋を秘密裏に進む商船エドワーディック号には、爆薬や爆撃機が搭載されていました。米国からイギリスに戦時物資を輸送するためです。そこにはわずかばかりの乗客も乗っています。大西洋にはドイツの潜水艦が潜んでいて、いつ魚雷を発射されるか、危険と隣り合わせの旅になっていますが、比較的安全な航路を避けても、できるだけ早くイギリスに着きたいという、切羽詰まった事情を抱えている人々が9名ほど乗り合わせていましたが、この僅かな人々の間で連続殺人事件が発生します。巨大な商船という「密室」のなかでの殺人、犯人は限られています。そこで登場してくるのが、たまたま米国での仕事を終えて引き上げる途中の、あのH・Mことヘンリー・メルヴェール卿です。彼が「顔の見えない犯人」を追い詰めていくプロセスは、いつも通りとてもスリリングで騒がしく、しかも舞台が洋上という犯人も逃げられない空間です。巻末解説にも出ていましたが、米国で生まれ育ったカーが、ちょうどその時代に米国から英国に移住するべく海を渡ったと紹介されていました。ドイツの潜水艦を避けながらの航海はさぞかし心が静まらなかったことだと想像しますが、その経験も余すことなく作品にしてしまっています。