Philippa Pearce

戦後の児童文学の金字塔の一つに挙げられてもいる、ピアス女史の『トムは真夜中の庭で:TOM’S MIDNIGHT GARDEN(1958)』をご紹介しましょう。ロンドンの北に位置している架空の街、カールスフォード(おそらく彼女が在学していたケンブリッジ)を舞台にした、ある少年、トムは、弟の麻疹のためにカールスフォードのおじの住むアパートに一時転居します。そして、そこには素晴らしい庭園が広がっていました。でもそれは、トムの夢の中でしか訪れることができません。子どもたちが夢の世界で遊ぶのは、いまも昔も変わりませんが、面白いのは「時」も遥か昔にさかのぼった時代になっている点です。トムはその時代に少女次第を過ごしていたハティと知り合いになります。面白い点は、その時代に過ごしていた人たちはトムのことが見えません。ハティとトムは妙に気が合って仲良しになります。それから色々なおしゃべりや冒険をしますが、やがて弟の麻疹も治り、トムは元の家に戻らざるを得なくなります。家には戻りたいけれど、愉しい夢の中の庭園でハティと遊び続けて行きたい。ここでは「時」がトムの敵になります。アパートの一階にあるとても古い大時計はカチカチと無情に時を刻んでいきます。さて、「時」の呪縛を逃れて「永遠」を手にしようとトムが取った行動は? というとても面白い構成です。丁寧に作り込まれた物語なので、ひとつ一つの描写が秀逸です。少年から大人に変わっていくトムの心も上手に描かれています。読んでない大人にもおすすめしたい一冊です。自分のなかにもっている子どもと出会うために。