アンソロジー2

めちゃ暑いので、多少は効果があるかなと思い、『ドイツ怪談集』(種村季弘編)を借りてきました。古今東西、どこでも人気があるのは「怖い話」で、ドイツ人もまた例外ではないようです。ドイツの街、どこでも良いので夜歩いてみると分かりますが、繁華街は別として、住宅の立ち並ぶ通りに行くと暗いのです。家のなかも一緒で、間接照明が好きな人種らしく、どこか極東の島国のように天井から蛍光灯の光がまばゆいほどに部屋の隅々まで照らしているのとは大違いで、部屋の隅々は必ず暗くなっているのです(拙宅もそのスタイルですが)。暗闇には得体の知れない何かがいて、怪談話にはじつに好ましい舞台装置になっております。さて本論ですが、この本には16話の短編が入っています。全体で300ページちょいですので、文字通り短編ばかりです。自分が住んでいた街もそうでしたが、ドイツ各地の街の歴史には、いまだ中世の黒死病の記憶が刻まれています。モニュメントが作られ、街の名所として残っているところも多いです。自分には掘り出す語学力がありませんでしたが、調べてみると、おそらく魔女や魔女狩りの歴史も残っていると思います。そうした中世の陰惨な歴史を踏まえた社会観が、幾つもの怪談譚を生む背景となっているはずです。王族や貴族・諸侯も血統を重んじるあまり、血が濃くなり奇っ怪な言動を起こすような人物も数多く存在したようで、それがダークミステリを更に複雑にしていきます。短編集にもそれを彷彿させる話が多く出てきます。読んでいるうちに、肌寒さより懐かしさが出てきたようで、どこかでまたドイツ行脚に出かけてみたくなりました。