カーター・ディクスン2

HM(ヘンリ・メリヴェール)卿の『かくして殺人へ(And So to Murder)』はなかなか楽しめました。1940年の作品なので、ちょうど第二次大戦の始まった辺り、イギリス全土に投下管制が敷かれた頃の話なので、ドイツのスパイなどの登場があるのかと思いきや、触りだけで、つまるところ男と女のもつれ話が起因となった殺人事件でした。たとえ戦争が起ころうが、起きまいが、痴情の縺れはいつの時代もしばしば起きます。物語の舞台は映画の撮影所で、随分と描写が詳しいなーと思っていたら、カー自身もちょうど映画のシナリオを手掛けていたらしく(うまく行かなかったようですが)、そうした体験が、この物語のリアリティを高めているようです。しかも戦時下なので、映画界にとっては正に冬の時代の始まりになっていますね。そんな中で展開する殺人事件とラブストーリー、じつに素晴らしい仕掛けです。言わずもがなですが、カーはやはり天才です。