ドイツ、それも東ドイツが舞台のサスペンス小説『影の子』を思わず手にしてしまいました。自分がドイツに赴任したのは1992年、壁の崩壊から3年目、東西ドイツ統一から2年目のことでした。しかも、赴いたのは旧国境地帯に近い街でしたので、かつての東側に行くと一気に変わる景色に驚いたことを覚えています。旧東ドイツは、正しくは「ドイツ民主共和国」となっています。つまり民主主義に拠る共和国という建付けですが、これはもうブラックジョーク以外の何ものでも有りません。この本の中でも自国のことを「共和国」と呼んでいます。社会主義国家は、党による独裁国家の形態をとりがちで、それはすなわち全体主義思想に誘導されていきます。「個人」や「自由」が制限されてしまうことが好きな人間はともかく、そうでない人々には居心地の悪いことこの上ない政治体制になりがちです。しかも、集団行動が大好きなドイツ人ですので、お互いに集団とは異質な他者の行動に干渉する(監視や密告する)ことが、社会のあらゆる階層で行われます。これを国家組織として指導したのが、シュタージ(国家保安省)になります。ところが、集団というのは得てして派閥を形成するために、内部で主導権争いや足の引張合いが発生することになります。根源的な原因は人と人との半目なので、どんな政治体制でも避けられません。これが、この作品の生まれた背景だと思います。読んでみて感じたことですが、例えどんな体制の社会でも一定数の常軌を逸したおかしな人間と、人間味のある憎めない人間は必ず居るということです。









