ヘレン・マクロイ

アメリカのミステリは凄惨な場面が数多く出てくるので、個人的にはあまり好きではないのですが、この『暗い鏡の中に(Through a Glass Darkly)』はそうではありません。途中まではむしろ幻想ミステリ的な展開をしているので、こわごわ読んででおりましたが、自分の好きな学園ミステリなので、さくさくと読んでしまいました。ここで紹介されている「ドッペルゲンガー現象」は、現代科学の中では一笑に付せられてしまいますが、この小説の書かれた時代(1950年)では、ごく普通に、巷に広まっていたものです。あちらこちらにある街角の暗闇には、たしかに驚しげな何かが蠢いていたようにも思えます。そういえば、1960年代に放映されていた「ウルトラQ」でも、少年の幽体離脱の巻があったと記憶しています。長年経っても自分が今まだ覚えているのは、相当に怖かったからでしょう。つまり、1950〜60年代というのは、こうした幻想ものが、普通の会話として持て囃されていた時代でもあったのです。