アンソニー・ホロヴィッツ3

ホロヴィッツの作品は現代ミステリーゆえに、いろいろな仕掛けが仕組まれていて、読み手を愉しませる工夫がふんだんに有るように思えます。なにしろ作品中に著者が登場するわけで〔しかも間抜けな脇役で〕、アテュカス・ピュント風の異次元描写が物語に色を添えていきます。この『メインテーマは殺人』は、元刑事ホーソーンと作家ホロヴィッツのコンビによるシリーズの第一作目にあたります。すでに第二作目『その裁きは死』を読み終えており、二人の掛け合いが物語のキモであることは知っていましたので、けっこう愉しく読み進めることが出来ました。ホロヴィッツのどの作品でも言えることですが、冗長な部分はまずもって有りません。すべての文言のなかに、謎を解く真実が隠されています。そういう意味では、じつにフェアなミステリという評価もできると思います。全編を通して英国的な社会環境を投影したような作品なので、東京メトロの電車の中でも、これを読んでいる時間はロンドンの地下鉄に乗っている気になります。とある裕福な女性が、葬儀屋を訪れて自分の葬儀の準備をしたその日に殺されるという、まあ確率的にはあり得ない事件なのですが、ホーソーンが独特の嗅覚で、ひとつずつ動機やアリバイを探っていくストーリーです。作中作家のホロヴィッツの迷推理は、むしろ進むべき道を反証しているため、読み手があまりミスリードされることはないでしょう。妙なことにスピルバーグに好かれているホーソーンですので〔注:文中で〕、もしかすると、そのうちに映画化されるかも知れませんね。