アガサ・クリスティ20

有名な『バートラム・ホテルにて』です。探偵?役としては、ミス・ジェーン・マープルが登場しますが、いつものような村の中の殺人事件ではなく、大都会ロンドンでの、しかも1960年代という舞台設定。ミス・マープルにとっても、クリスティにとっても晩年の作品になってきます。ビートルズなども話のなかで出てくるので、もはやマープルの活躍するような時代ではないようです。老舗ホテルが舞台になっていますが、そこでも他の滞在客から「あら、あの方はジェーンさんね、まだ生きていたのね、百歳ぐらいかしら?」とひどいこと言われていますが、クリスティがこの物語で書きたかったことは、ちゃんと文字として出ているはずですので、時代とともに変わるもの、変わっていかないもの、というのが伏線として有るように思えます。そして世代間の描写も、それだけ切り取ると若さと老い(牧師の振る舞いに形容されている)だけという側面しか見えませんが、実際には若い者は、いつの時代も愚かしい振る舞いをしがちであり、それは時代が経っても変わらないものだと云わんとしています。愚かな行動を起こさないように、年老いたものは(若い人から嫌われても)きちんと正していくことが肝要であり、そうでないと(=放任してしまうと)それこそ取り返しのつかない事態を招いてしまう。ミス・マープル自身もそんな自分の経験をさりげなく話しています。それが作者のメッセージだとわたしは感じました。多くの苦渋を経験してきた晩年のクリスティだからこそ描ける作品なのではないでしょうか?