A・C・ドイル2

シャーロック・ホームズの邦訳本は多数出版されていますが、今回手にしたのは、光文社版の日暮雅道氏の訳本『バスカヴィル家の犬:the Hound of the Baskervilles』です。ホームズものにしては長い物語ですが、三百ページ強なので、新訳ということも相まって一日半で読み終えました。現代的で読みやすい言葉で書かれてあるので、とても1901年出版の本とは思えぬほどでした。あらためて翻訳者のご尽力に感謝したいと思います。
物語の舞台は、イングランドのデボン州(コーンウォール半島の中央部)にあるダートムア〔Dartmoor〕と呼ばれている湿地帯で起きる事件を描いています。この湿地帯には花崗岩とヒース、泥炭層により異星のような摩訶不思議な光景を見せている一帯で、人家もまばらで国立公園にもなっております。ルートを間違えると人や動物は底なし沼に嵌り、二度と戻っては来ません。こうした場所では得てして怪奇な話がはびこります。
英国ミステリのカテゴリの中に「ダートムア小説」というものがあるほどです。イーデン・フィルポッツ氏の作品の多くが、ここを舞台にして描かれております。さて、ここでは「魔犬」がキーワードになっています。パスカヴィル家の領地には巨大な魔犬が潜んでいて、夜になると出没し羊や村人を襲うという言い伝えが古より存在しておりました。
そのようななか、バスカヴィル家の当主サー・チャールズ・バスカヴィルは謎の死をとげ、遠く米国からやってきた、その遺産相続人サー・ヘンリーにも魔の手が及ぼうとしています。謎だらけで複雑怪奇なこの事件を、ホームズとワトソンは、見事な推論と行動力で一つずつ謎を解きほぐしていきます。

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