アン・ペリー

大型連休中に読んだ本の中で、一番面白かったのは『偽証裁判』(1994年)でした。シリーズとなっている「ウィリアム・モンク」ものの代表作です。タイトルから分かるように、法廷ミステリですが、時代は19世紀半ば、クリミア戦争を終えた当時のイギリスの社会を描いています。スコットランドヤードの元警部モンクと、看護婦へスター・ラターリィ、法廷弁護士オリヴァー・ラズボーンの三人が、いろいろな難局に直面し、互いに衝突しながら突破口を見つけていくという筋書きです。三人に共通しているのは、強烈な正義感と信念です。それゆえに反発しながらも認め合っている様子が、そこかしこに描かれています。当時のイギリス社会は、まだまだ中世の名残が色濃く残っていて、とりわけ女性への偏見が強烈でした。女性は家に大人しく引っ込んでいるのが、イギリス社会の通念だったようで、へスターのような職業婦人への偏見蔑視は相当なものだったようです。この小説では、へスターが主役で、モンクもオズボーンも、へスターの言動に対して振り回されながらも、結局のところ彼女を全力を掛けてサポートしていくという、とてもワクワク感のある展開でした。云うなれば、かれら三人の導火線役、起爆剤がへスターだったのでしょう。登場している女性陣も、枠にはめられない「行動する女性」を描いていますが、おそらく、作者自身の想念が、こうした女性像を描かせているのでしょう(じつはペリー自身も、未成年のときに、友人と共謀した殺人罪で逮捕されています)。英国ミステリでも、女性作家ものが好きな自分としては、アン・ペリーは見過せない一人になりました。(この4月、84歳で死去)