マニアの間で評価の高い、ベントリーの『トレント最後の事件』を見つけたので読んでみました。1913年出版というので、やはりというか大戦前の世情が不穏な時代の作品になっています。程度問題ではありますが、世の中が安穏だとすぐれた文芸作品は出にくいのかも知れません。推理作家のG・K・チェスタトンとは旧友で、互いに作品を捧げあったりしていたようです。ウォール街の話も出てきますが、実際の舞台はイギリスです。アメリカ財界の大物だったマンダースン氏が、イギリスの邸宅で銃弾で撃たれた姿で発見されます。新聞社の社長は、多くの実績をもつ画家でもあり新聞記者でもあるトレント氏に、事件の調査を依頼します。殺人犯人を捜し始めるのですが、容疑者の一人でもある未亡人メイベルに一目惚れ、警察を出し抜き、彼なりに犯人の目星をつけるのですが、彼女への思慕から途中で戦線離脱してしまいます。ポアロやホームズのように、冷静沈着に勧善懲悪を進めていくような、完璧な探偵とは真逆の行動が面白かったです。やはり人間というのはこうした生き方の方が楽しい。しかも終盤になって二転三転するような展開になり、恋愛騒動やそうしたプロットもまた先駆けのように思えました。かなり素晴らしい作品だと思います。









