メアリ・ウェストマコット5

クリスティのウェストマコット名義作品『未完の肖像』を読んでみました。この名義で今迄ハズレはありません。ミステリや謎解きでは全くなく、この本もある一人の女性の遍歴を淡々と描いた作品ですので、好き嫌いが別れるかも知れません。先入観抜きで、一つの小説として読んでみると、色々な想念が頭に浮かんできて、自問自答して人生を振り返ったりしました。ありきたりの言葉を借りれば、とても感銘を受けた作品でした。第一次大戦と、そのあとの戦間期のイギリスに生きた女性の物語ですが、アガサ自身のメタファーという解釈もあるようですが、その舞台を現代社会に置き換えても通用する、とても含蓄がある物語になっています。
そもそも、根源的に男と女は考え方が違うのかどうかは大きな謎ですが、少なくとも、夫婦と云う緊密なつながりの中では、男女間の思考プロセスの違いは間違いなく存在していると思います。赤の他人ならばスルーできるような事柄でも、どうしても同調することを互いに求めあいがちだからです。ひらたく云えば、自我を通そうとするが故に、軋轢が生じてしまうと私は感じています。身近であっても他者の心は変えられないと言うのが、古今東西の真理です。それが出来ないのだから、できるのは自分自身の折り合いだけです。せめて目の前の相手の気持ちを知ろうとする、ということだけでも出来れば、世の中は随分と生き易くなるはずです。結構の長編でしたが、なかなか面白い本でした。年末年始に触れた小説の中では、マイベストでしょう。