ドロシー・L・セイヤーズ7

何だかんだ言ってもセイヤーズの描く世界は面白い。オックスフォード大学の女子カレッジ、サマーヴィル校〔後輩にマーガレット・サッチャー〕の初期卒業生のようです。その昔は日本と同様に女性に学位は授与されなかったようですが、セイヤーズは後から学位を授与されたようです。つまり、母校を舞台にしているため、この『学寮祭の夜』が実に見事な描写をしていることの確固たる背景になっているようです。探偵作家ハリエットが母校の学寮祭に出席した際に、いろいろな嫌がらせ的な事件が頻発していて、それをハリエットはピーター卿抜きで解決しようとして、泥沼にはまるだけでなく自らも命の危険にさらされてしまいます。そこでようやくピーター卿が登場して、事件解決にむけて獅子奮迅の活躍をする姿に、頑ななハリエットの心も雪解けを始めます。
このシリーズで愉しいのは、ハリエットとピーター卿の掛け合いです。知的な会話が醸し出す空気は何にも代えがたいです。しかも、この作品では学寮に集まる女性陣のかわす知的な会話も目の当たりにすることが出来ます。総中流社会の戦後日本では、政財界のトップ含めて、ほとんど耳にする機会はありませんが、それが良いこととは到底思えません。階級社会の弊害はむろん理解しておりますが、総白痴化に向けて邁進している現代日本の教育制度を思うと、何とかしないといけないと感じるばかりです。