ジョセフィン・ティ

高木彬光氏の『成吉思汗の秘密』とか『邪馬台国の秘密』を読んで、おもわずワクワクしたのは高校生の頃でした。誰もが感じている「教科書に書かれている内容は本当に正しいのか」、そんな気持ちもあって読み進めたことを思い出しました。今回、なんとなく手にした『時の娘』(1951年)はそうした歴史ミステリの一つです。ミステリの世界では、他では使わないようなタームが出てきます。こうした小説は「安楽椅子探偵もの」とカテゴライズされるようです。探偵役は動かずに、持ち込まれた資料をもとに、机上での推理で大胆に「正しいとされた」事実関係の誤謬を明らかにしていく話です。ロンドン警視庁のグラント警部は大怪我をしてしまい、病院の一室で天井ばかりを眺める生活の慰みに本を読み始めるのですが、そこで出会ったのが「リチャード三世」です。本国イギリスでは知らぬ人のないほど暴君だった王様ということになっておりますが、さすが警部だけあって、その肖像画に犯罪者の匂いを感じなかったことから、この歴史上の人物を追っかけていく日々が始まりました。歴史学者とは異なる「犯罪捜査の眼」をもつグラント警部、史実からどんどんと矛盾を発見していきます。病室に集まってくる面々も、なかなか魅力的で、その展開に夢中になって、いつの間にか読み終えていました。古今東西、至るところで歴史は為政者にとって都合よく改ざんされてます。こうした点を再認識するのもまた愉しからずや、という話で、もしも入院中の知り合いがいたら、お見舞いに加えておきたい一冊です。