A・E・W・メイスン

ソウルから帰国後、外出できる日は連日雨だったので、電子図書館で借りたものです。所蔵数は限られますが、音声の読出しもできる仕組みで、いやはや世の中便利になりました。メイスンの綴りは「Alfred Edward Woodly Mason」です。1924年に彼が書いた『矢の家:The House of the Arrow』(守屋陽一訳)を読んでみました。オックスフォード卒で舞台俳優・脚本家・歴史小説家・下院議員などなど、じつに多芸多才で知られるメイスンのミステリ小説分野の代表作です。パリ警視庁のガブリエル・アノー警部を登場させた二作目にあたります。フランスのディジョンが舞台で、モンテカルロのカジノなども出てきますが、実際には英国風ミステリ小説になります。読み進めるうちに、すぐ前に読んだ『赤毛のレドメイン家』のピーター・ガンズ役がアノー警部、まぬけな刑事ブレンドン役が、ここではロンドンの弁護士フロビッシャーに重ねられてきます。全体の構成はまるでデジャヴのよう。となると真犯人も何となく見えてくるのですが、私的に解釈してみると、こうした時代にイギリス社会で起き始めている、ある一定の概念のようなものを感ぜずにいられません。それは「女性に関する既成概念の変化」です。もう少し強めに言うと「破壊」かも知れません。メースンもフィルポッツも男性作家ですので、彼らの鋭い感受性で、そうした社会基盤の地滑り(女性の台頭と男性社会の凋落)を体感していたのでは?という見方も有りだと思います。