ウィリアム・サローヤン

アルメニアという国があることは知っておりましたが、浅学ゆえその国の歴史がどうだったかは殆ど知識を持っていません。どうやら米国には少なくないアルメニア系アメリカ人〔推計80〜150万人〕がいるようで、なかでもカリフォルニア州はアルメニア系の住民が多く住む地域〔約20万人〕のようです。『ヒューマン・コメディ』作者のウィリアム・サローヤンもまた、カリフォルニア在住のアルメニア系三世だということです。大量の移民と云うと本国での貧困や政情不安が引き金になっており、アルメニアも例外ではないようです。地理的にオスマン帝国やペルシャ帝国に挟まれた小国なので、歴史の中では大変悲惨な事件が幾度も起きている一帯です。民族として被った辛さ、そして生き抜いてきた誇りをもって各界で活躍している人は多いようです。この本の舞台は1943年、まさに戦時中の暗黒の時代の物語です。出征した兄に代わり高校に通いながら電報配達員を始めた主人公。彼の純粋な目を通して感じられる日常と、愛する家族の戦死の報を届けねばならない辛さ、悲しみをぶつける当てもない戦争がもつ悲惨さを描きながらも、それでも一歩ずつ前に進んでいかねばならない人びと。何を以て「コメディ」と標するのかは皆目わかりませんが、多くを考えさせられる一冊です。