図書館で借りたヘレン・マクロイ女史の『悪意の夜:The Long Body』(1955年)を読み始めたら、どうも既視感ありありで、もしやと調べたら二年前に読んでいた本でしたw。これからすると読了後三年も経てば、内容はすっかり忘れてしまうかもしれません。
さて本題ですが、終戦から10年後という東西冷戦のさなか、核戦争もいつ勃発しても不思議ではない、国際情勢が極めて危険だった時代を反映し、ロシア(ソ連)のスパイの嫌疑がなされたり、メキシコ国境付近での緊張など、時事的な話題がてんこ盛りの作品になっております。全体の構成についての基本的スタンスは、現在というのが、時間だけで輪切りされた平面的な断面ではなく、過去から繋がっているあらゆる要素が発現している存在であり、そこにいる人の人格もまた、過去から連綿と築きあげられているものだという観点で作られています。なかなか考えさせられる内容です。たとえて言えば、身近な人ですら自分が知る印象や記憶だけでは捉えられない、隠されている要素が実際あるのだという話です。小説なので、ミステリアスな味付けとしてヒロインの夢中歩行が取り上げられます。おそらく無意識下になることで、日常見えない存在が見えてくる一つの仕掛けとして、作者は夢中歩行をネタに使っているのでしょう。こうした心の闇に潜む襞を、じりじり炙り出してくるマクロイ女史の手法は見事です。夢から覚めたら、目の前に佇む人が、実際には自分のまるで知らない人だったように思えるとか。「印象」というのは、社会生活するうえでそこかしこで使う感性ですが、それがあくまで一面に過ぎないことは心しておく必要があるかも知れません。









