クレイグ・ライス2

今回のご紹介は、ライスの人気作『スィートホーム殺人事件』です。肩の凝らない気楽なミステリということで、コロナ罹患以降の気力体力低迷時には、こうした本が必要でしょう。人気作家と、三人の子どもたちが織りなすドタバタ劇ですが、いつの時代も子どもたちの天真爛漫さは救いになります。母親は仕事に勤しんでいるけれど、子どもたちはお母さんが大好き、そんな光景を思い浮かべてライス自身も「こうあってほしいシングルマザー像」を描いているのかも知れません。被害者以外、悪い人は出てこないのも「○」だと思います。ストーリーを離れて、今回の本で、印象深く感じたことが有ります。欧州人の描く小説では、まず人物像を描くときに、髪の色、瞳の色を示し、それから背格好とかいう順番で形容していきます。たぶん「血筋」を重んじる彼等なりの人物分析なのでしょう。ちなみに人種のるつぼの米国では、こうした形容は慎重にやらないと、すぐに告訴されてしまいそうです。日本人の場合、このあたりが鈍感なのは、そもそもが均質化された社会に住んでいるからかも知れません。反対に、異質なものに対しての、根拠もろくにない偏見が強いのも日本人でしょう。社会全体でみれば、「違う」ということは、社会の強靭性を高める意味で、とっても重要な要素になります。「血筋」とか「均質化」にこだわる社会は、自然界での事例を取るまでもなく、脆く儚いものだと思います。