アガサ・クリスティ31

そろそろクリスティ詣では一旦休止とすることにします。このタイミングで選んだのが『雲をつかむ死:Death in the Clouds(1935)』です。短編づいていたので、今回は長編作品を選びました。紹介すると、この小説の舞台は”機内”です。いわゆる密室空間としては、典型的な設定になります。
巻末の解説によると、どうやらこの飛行機は人数や座席配置からするとダグラスDC-3とのこと、ところが舞台設定の年代には、英仏間はこの機材で飛んでおらず、しかもクリスティ自身は飛行機の旅が嫌いだったようで、どうやらこの物語はクリスティの頭のなかで構築されたものだそうです。通常の場合、人を殺めるまでの動機は、激しい憎しみか、金にまつわる欲望かのいずれかになりますが、前者は感情が露呈するので分かりやすく、後者の場合は、そうした性向は社会通念で無作法とされるので基本隠したがります。そのため金絡みの殺人は表面的には識別が難しくなりがちです。そこで地道に状況証拠を固めていくという手法が必要になる訳でしょう。この本の殺人事件も金に絡んだ動機が発端のようで、複数の登場人物には該当しそうな背景がありました。それもあって、わたし自身も犯人探しに右往左往してしまいました。
登場人物がそれぞれ面白いキャラなので、それもまたこの物語の魅力ですね。本を読む時間がない人は、ITVテレビドラマにもこの話はありますので、観ることをおすすめします。本とは設定が若干異なりますが、テレビでも大いに愉しめます。