リズ・ベリー

快適だった函館から蒸し風呂の都内に戻って、かなりげんなりしています。こんな時は読む本も軽めにしようと、リズ・ベリー女史による『月影の迷路(The China Garden)』っを手にしました。ミステリというより、久々のファンタジー小説です。430ページもあるのですが、それを感じさせないほどのライトなノベルです。舞台は、英国郊外の丘陵地帯に隠れるようにある元修道院の館、そして、その領地と一体となっている石造りの小さな村で、にわかに説明できない物語は進んで行きます。今なお、その理由は謎に包まれているストーンヘンジですが、この本のなかでも不思議な石柱古墳や洞窟が出てきます。館の一角にある、長らく封印されていた中国庭園にある石畳(迷路)がトリガーとなり、主人公クレアの眠っていた冷感を覚醒させて行きます。話のなかで、登場人物、それぞれが持っている秘密が、少女の前に次第に明かされていきます。「守護者(ガーディアン)」とはいったい何者なのでしょう。英国はとりわけ「Bloodline(血筋・血脈)」を大切にします。こうした文化は、先の大戦敗戦で、古(いにしえ)から続いてきた概念が、ことごとく雲散霧消してしまった、いまの日本人たちにはピンと来ません。こうした血脈世界とファンタジーが合体し、カオスになったのがこの小説です。血脈のミッションと個人の欲望、その狭間でヒロインは悩み、そして立ち向かっていく、こうした本は読後感も清涼です。