ジョセフィン・テイ2

いわゆる車椅子探偵小説の『時の娘』がやたらに面白かったので、図書館から借りてきたのが『歌う砂:The Singing Sands』です。この作品の発表は1952年、その年の2月にエリザベス・マッキントッシュ(本名)は他界しております。この本は遺稿として出版され、文字通り「グラント警部最後の事件」となりました。この主人公のグラント警部は大好きで、自分的には一つのベンチマークでもあるのです。長身でハンサム、博識で頭の切れも抜群でありながら、人には優しく情熱的、行動的でもあります。しかも財産もそこそこ持っている。こんな人物なので、周りの女性たちも放ってはおけないでしょうね。魚釣りを趣味としているところも、自分的には「〇」でした。
今回の舞台は、ティ女史の生まれ故郷、スコットランドです。風景や風俗の描写が長けているのも納得できます。登場人物の雰囲気や心の描写にも素晴らしいものがあり、読みながら、いつの間にか彼女の世界観に没入してしまいます。この筆力はちょっと形容しがたいです。それにしても心残りなのは、グラントのこれからが分からない点です。早晩スコットランドヤードは辞職するでしょうが、魅力的なマータや、すてきな子爵夫人ゾーイとの関係がどうなるのかを思うと、気になって眠れません(笑)。起こった事件解決には慧眼をもつグラント本人も、先々のことは全く分かっていないようで「ほんとうに途方もない考えだ」と、この本の最後に締めています。