今回はいにしえのドイツで発行されていた暦書の中の説話集として纏めている『ドイツ炉辺ばなし集:Kalendergeschichten』(1808-15,19 )をご紹介しておきたいと思います。作者はヨハン・ペーター・ヘーベル氏。彼はスイス・バーゼルの生まれでしたが、疫病で父と妹を失い、母の郷里、ハウゼン村(当時はバーデン辺境伯国)で育ちましたが、十三のときに支えてくれた母も病で無くしてしまいます。失意のなか、カールスルーエのギムナジウムに学び、母の遺志をついで聖職者になるため、大学でルター派神学を学びます。努力の甲斐あって、やがてはギムナジウム学校長や聖職者最高位、そして上院議員になり、ルター派の暦作者として暦話の編集に携わります。聖職者であっても寛容の精神を忘れず、その暦話も堅苦しくなく、人情噺や笑い話など民衆に親しみやすい内容で、バーデンのみならずドイツ諸都市でも人気だったようです。当時、暦というものは、日の出日の入り刻、月ごとの天候、農事則などが記載されていて、家の友として、一年を通して民衆の生活の中で使われるものでした。暦話はそうした季節の移り変わりや、天文の動きと連動して、暦書のなかに様々の啓蒙的な話を残しました。この本に載せられているものはヘーベルが書いた三百近くの暦話のなかから58篇を日本の読者向けに選んだものです。読んでみると、時代を反映してか、話の大半は戦争絡みのものでした。こうしてみると、文学と戦争とは互いに異質なものですが、人間の感情を逆なでする争いごとは、寧ろそこから珠玉の物語を生みだす力の元になっているのかも知れません。









