Helen McCloy 10

今回のご紹介はヘレン・マクロイ女史の、『逃げる幻:The One That Got Away』(1945年)になります。今回も最後にはベイジル・ウィリング博士による謎解きになりましたが、前半から中頃まではピーター・ダンバー大尉が読者を導きます。出版年から分かるように、第二次世界大戦が終わり、その戦後処理のさなかの出来事に絡む殺人事件になります。初めは単なるシェルショックの少年失踪事件に過ぎない展開だったのですが、その実、深いところに「戦争の闇」が眠っていました。ダンバー大尉が調べていくと、スコットランドの寒村には、いろいろと得体の知れない人々が暮らしていました。そうしたなかで発生する殺人事件になります。マクロイ流の心理描写と、戦争によって生じた登場人物たちがもつ心の傷跡が縦横に錯綜しながら、事件が複雑な様相を呈してきます。最後まで楽しめる作品です。