Ellis Peters 17

今回のご紹介は「修道士カドフェル」シリーズ、第13作目の『代価はバラ一輪:The Rose Rent』(1986)光文社文庫版で、訳出は大出健さんです。今回はスティーブン王と女帝モードの覇権争いとは離れた、シュールズベリーの市井の人々のお話です。修道僧カドフェルの活躍で殺人事件は解決しますが、その動機は「欲得」でした。いつの世も悪人は存在するものですが、複雑なのは普段はそうでもない人間が、あるきっかけを境に邪な心を生んで、罪人の道に落ちていくことにあります。きっかけは千差万別ですが、それもこれも突き詰めると「欲得」に、自らの精神が踊らされて壊れてしまうようです。周囲の助けに救われるケースもあるのでしょうが、眼がくらむとそれも役に立ちません。環境に責任を求める論調も有りますが、結局はその人自身の本性に帰結するのだと思わざるを得ません。「欲得」という因子は、人である限り、誰しも持っているもので、それを制御する手法は生きていくなかで、自分自身で獲得していくしか方法はありません。こうしたことを考えるように仕向ける本書は、一見軽妙な物語ながら、なかなか秀逸な一冊に思えます。