Anne Hocking

幾度となく自分自身もお世話になっているので、白衣の看護婦さんには頭が上がりません。今回ご紹介するのは『看護婦への墓碑銘:EPITAPH FOR A NURSE』(1958)です。この小説では、仕事のなかで知り得た患者さんの秘密をネタにして恐喝を続けていたベテラン看護婦さんが殺されてしまい、その犯人探しを行うというストーリーです。何しろ脅されていた元患者さんは複数おり、いずれも当日のアリバイが不確かという状況で、かなり難しい事件になっています。指揮するのはスコットランド・ヤードの敏腕警視ウィリアム・オースティン、その鋭い性格分析で犯人を追い詰めていきます。派手さはありませんが、私の重視する登場人物の感情描写もしっかりと押さえており、落ち着いて読めるミステリーです。しかも読みやすく描かれており、これを仕上げた鬼頭玲子さんの訳出も秀逸と思います。警視オースティンものだけで29冊も出版しているのですが、邦訳本がこれだけなのは寂しい限りです。