ミステリーから一寸離れて、パドマ・ヴェンカトラマン女史の『図書室から始まる愛:CLIMBING THE STAIRS』(2008)を読んでみました。いわゆるヤングアダルト本なのですが、複層的な切り口なので、大人が読んでも得るところは多いと思います。舞台は第二次世界大戦が火を噴いた1941年のインドです。カースト最高位ブラーフマンの一族に生まれながらも、15歳のときに、身勝手な自分のあやまちで独立運動のデモに巻き込まれた父を大怪我させてしまいました。英国兵の警棒による打撃で、医師だったほどの聡明な父は、言葉も話せない植物人間になり、生活できなくなった一家は祖父の家に引き取られてしまいました。伯母やいとこからの嫌がらせを受けながらも、持ち前の勝気さで生き抜いていきます。勉強熱心な自分を解放できる唯一の空間が、二階にある祖父の図書室(書斎)でした。原書タイトルの「階段を上って」は、女性の場合は、階級が上でも軽々に二階にも上がっていけないインドの男尊女卑社会の象徴の一つです。ただし、図書室に並べられている本は、それを読もうとする人にとっては、隔たりなく平等に開かれています。大好きだった兄はイギリス軍インド人部隊に、恋焦がれた友は米国に行ってしまいますが、女性観は平等とは云えません。ここでは、帝国主義や戦争に対する憤りと並行して、因習的、差別的な女性観への反発が、主人公の少女の「生きる力」を支えているようです。家族への無私の愛情は、とても大切なものである一方、時として残酷な側面もあるのだなと感じました。2009年全米図書館協会「ヤングアダルトのためのベストブックス」ボストン作家協会賞受賞作品です。









