Erich Kästner

本はオアシスの様な存在だと、前回のエッセイでも紹介しましたが、ならば無理に小難しい本を選ぶ必要もありません。ケストナーは児童文学作家として世界中で知られておりますが、自分自身は読んだことがない、もしくは遠い昔に忘却してしまったのかも知れません。今回手にした『飛ぶ教室:Das fliegende Klassenzimmer』(1933)も児童文学作品ですが、大人が読んでも十分楽しめる一冊だと感じました。ケストナーは物語のなかで、いろいろ象徴的な言葉を残しておりますが、その「子ども時代を忘れないで」というのが一番大切な言葉だと思います。気のおけない友人たち、叱られてばかりだけれど親身になってくれた先生、そして心配や迷惑ばかりかけてきた両親。こうした子どもの時の人間関係は人により様々でしょうが、それぞれの生活環境の中で、楽しいことや辛いこと諸々の体験を通じて学んでいくことになります。そうした「学び」が、それからの人生の大きな道標になるのだと感じます。ケストナーが何故にこれまで評価されるのか、それは彼自身の子ども時代の体験あってのことなのでしょう。1933年というと、ドイツではナチスが政権を奪い、文化人やユダヤ人を弾圧し始めるという暗黒の時代を迎えました。そうした世でも、出版を許された児童文学を通してケストナーは、人として大切なこと、忘れてはいけないことを発信し続けたのです。ギムナジウムに学ぶ子どもたちの経験を描く物語ですが、深い感動が心を打ってやみません。